*NOTES

このSSはSEVENFOLDゲーム内の登場人物のお話ですが、本編に密接に関わるお話では無いので気軽にお読みください。




━━━━━━夏
どこまでも澄み渡る青い空。



   

SKY BLUE 〜葵色〜 




「ねえ、葵。聞いてるの?」

「え?あ、うん。聞いてるよ」

実は全然聞いてなんかいなかった。
空を見上げている時の私の心は空っぽになっている。
だから何も聞こえない。
だから何も感じないのだ。
ただ目に見える空の色だけが私の全て。
だけど羽の無い私は自由に空を飛びまわる事なんてできない。
どこか遠くに連れて行って欲しい。
どこか遠くに・・・・・・自由な場所へ。

「じゃあ、私が何の話をしていたか言ってみなさい!」



突然の大声に耳がキーンとした。
さすがに耳のすぐ近くで大声を出されたら、心よりも身体が反応してしまう。
私はクラクラしている頭を抑えながら知里ちゃんの方を向いた。

「なに?知里ちゃん。急に大声出したらヤだよ・・・・・・」

「あんたが人の話を聞かないで、空ばっか眺めてるからでしょ!!!」

「ご、ごめんなさい・・・・・・・・・・・」

今にも暴れ出しそうな勢いで怒っている知里ちゃんに、私は素直に謝る。
これ以上何か言ったら私の身がどうなるかわからない。
こういう時は素直に謝るのが一番なのだ。

「もう!あんたって子は!なんで、そんな泣きそうな顔して謝るのよ!
 なんか私がイジメてるみたいに見えるじゃない。まあ、いいわ。いつもの事だし。」

知里ちゃんは呆れながらも、すぐに許してくれる。
でも「いつもの」って・・・・・なんかひどい言われよう。
わざと泣きそうな顔にしてるんじゃないもん!
素直に誠心誠意謝ったらこうなるんだもん!と私は心の中で知里ちゃんに反撃する。
だけど口には決して出さない。
だってそんな事、口に出したら八つ裂きにされて食べられてしまうかもしれないし。

「さっきの話だけど、夏休みの予定はどうなってるの?」

落ち着いた知里ちゃんがもう一度聞き直してくれた。
そっか・・・・・夏休みの話をしていたんだっけ。
私達は明日から夏休みなのだ。
今は校庭で学年主任の先生を学生全員で待っている。
去年もそうだったが、今年も夏休みの生活態度について話があるらしい。
それなのに先生はまったく姿を現す気配がない。
その上、何人かの先生が校舎と校庭をあわただしく行ったり来たりしている。
何かあったのかなあ?
私が首を傾げながら走り回っている先生達を見ていると、知里ちゃんの不機嫌な声が聞こえてきた。

「またなの〜あ〜お〜い!」

「え?そ、そんな事ないよ。えっと夏休みの予定でしょ?」

「もう!で、どこかに行くの?」

「たぶん、どこにも行かないと思う。家でボ〜として過ごすんじゃないかな」

「それ本当に青春真っ只中にいる女の子の夏休み?もっと健全に過ごしなさいよ。
 あんた彼氏でも作ったら?だいたい、葵に彼氏がいない方がおかしいんだからね。それだけの逸材でありながら・・・・・」

そう言って知里ちゃんはマジマジと値踏みをするような目で私の顔を見てきた。
なんか品定めされているみたいで嫌だなあ・・・・。

「葵さあ、好きな人とかいないの?」

「う〜ん。いないなあ〜」

「あんたなら選り取り見取りじゃないの!その中に居なかったの?」

「そうだねえ。居なかったねえ」 

「嘘っ!?あんたこの間なんか3年生のバスケ部のキャプテンに告白されてたじゃないの!
 あれがダメって言うのなら、あんた殺されるわよ」

「えっ、誰に?」

「私を含めた、この学校の女子全員」

「知里ちゃんもなの?」

「もちろん!」

知里ちゃんからの死刑宣告。
なんで、そんな事言うかなあ・・・・・・・・。
別に告白されて嫌なわけじゃないし、私自身、高望みをしているわけでもないんだけど、
ただ告白してきた人達は私をちゃんと見てくれてなかったんだもん。
私は俯いて拗ねたように口を尖らせた。
それを見た知里ちゃんが笑ってフォローを入れた。

「冗談よ。あんたは、きっとここじゃ誰とも付き合わない事知ってるから」

彼女は一年生の時からの友達だ。親友と言ってもいい。
入学して席が私の前だった事もあり、すぐに仲良くなった。
だから彼女はわかっていてくれているのだ・・・・本当の私を。

「知里ちゃ〜ん」

「こら!!佐々木!!!お前どこ行っていたんだ?」

私が感動のあまり知里ちゃんに抱きつこうとした瞬間、前から大きな声が聞こえてきた。
あの声って違うクラスの担任の先生の声だよね?
なんで怒っているんだろう?
私を含めた校庭に居る全員が声の飛んだ方向に振り向く。
先生は腕を組んで斜め下を見下ろしている。
その視線の先には、見覚えのない男子が息を切らせ前屈みになっていた。
「ぜえ、ぜえ・・・い・・・や・・・ぜえ・・・ぜえ」

その男子は前屈みになっていても一目でわかるぐらいに背が高い。
明らかに他の男子たちよりも頭一つ抜けているがわかる。
あんな人、この学校に居たんだ・・・・・・・。
どうやらその男の子は呼吸が乱れてまともに話す事が出来ないらしく、ずっとぜえぜえと言いながら立ち止まっていた。
走って来たのかな?

「あの・・・ぜえ・・・ぜえ・・・・ぜえ・・・です・・・・・うぐ・・・ね」

「さ、佐々木。わ、分かった。落ち着け。先生、ちょっと待とう」

先生もさすがにその男子が心配にみたいで少し待ってあげようとしている。
だけど先生と男子の間に、また私が見た事もない男子が割り込んできた。
その男子は息を切らせて前屈みになっている男子よりは少し身長が低いらしいのに、何故か前屈みになっている彼よりも大きく見える・・・・・。
強そうに見えるって言った方がいいのかなあ?
その男子は先生の前に立つと前屈みになっている男子をビシッと指差した。

「甘いですよ先生!!遅刻はいけない事じゃないんですか?こいつは社会のルールを破っているんですよ!
 ここは厳しくしないと、こいつの為になりません!!」

「しかしだな・・・・林。佐々木は今、話せる状態では・・・・」

先生に意見している男の子は「ハヤシ」君と呼ばれていた。
そして息を切らせている方が「ササキ」君と言うらしい。
林君と佐々木君。
二人共、隣のクラスの男の子かな?
やっぱり見た事ないなあ。

                          しつ
「先生がそんな事を言うのならこの場は僕がこいつを躾けましょう」

「躾けってお前・・・・」

何かしようとしている林君を止めようとした先生を押し切り、林君は佐々木君の方を向いた。
いったい何をする気なんだろう?

「おい!亮!お前は悪い事をしているんだぞ!」

「ぜえ・・・ぜえ・・・て・・てめ・・・え・・ぜえ・・・」

「聞こえないな?何か言ってみろ!」

「て・・・ぜえ・・ぜえ・・・だ・・だ・・れ・ぜえ・・・・の・・ぜえ」

「はよ言え!」

「くっ・・こ・・・ぜえ・・・ろ・・ぜえ・・・ぜえ・・・」

「さっさと言え!」

「ぐああああああ!ぜぇっ・・・・・・絶対殺す!」

「やっぱりだまれ!むしろ死ね!!」





息をなんとか取り戻した佐々木君が林君に襲い掛かろうとした瞬間、林君の右手が佐々木君の顔にメリ込んだ。
うわあ〜。なんか手首まで顔に入ってるよ・・・・・・人間の顔ってそんなに柔らかかったけ?
っていうか、あれって友達に冗談でするパンチじゃないよね。
林君が佐々木君の顔から手を引き抜く(?)と、佐々木君はそのまま横にポテッと音をたてて倒れた。
なんとなく漫画みたい。

「おい。林・・・・いいのか?」

先生が林君にそう尋ねる。
たぶん「そんな事していいのか?」、いや、「生きてるのか?」と聞いたと思うんだけど、
それに対して林君は、

「先生。俺がそんなにヤワな身体に見えますか?」

と自分の事を話していた。
絶対、ワザとだよね。

「お前の事じゃない!佐々木だ!佐々木!」

「大丈夫ですよ!俺のフルパワーの90%しか出してませんから!」

「それ、ほとんど全開だろ・・・・・」

「いえ、俺は90%なら手加減のしている方なんです。
 俺が本気なら、すでに亮は身体の内側から破壊されて、「ポゲラー」と叫んでいる事でしょう」

「どこの世紀末だ、それは・・・・」

その会話を聞いて私は笑ってしまった。
上のほうだけ見れば先生との会話を楽しげに話している普通の会話のように見えるけど、
林君の足元にはピクリとも動かない佐々木君が横たわっている。
それを見て私はもっと可笑しくなってしまい、ついにはクスクスと声を出して笑ってしまった。
いつの間にか私だけじゃなく他のみんなも笑っている。
何だろう、あの人?
おもしろいなあ。
私が林君をしばらくの間見ていると、また別の方から大声が聞こえてきた。
あれは今まで姿を見せなかった学年主任の先生だ。
先生は校舎の中からズンズンと肩を怒らせながらこちらに向かって来ている。

「高松先生!そいつらが犯人です!林と佐々木が犯人ですよ!」

「え?」

林君の前に立っていた高松先生(とおっしゃるらしい)が、
自分の名前を呼ばれ、学年主任の先生の方に振り向いた。

「今なんと?」

「そいつらが犯人ですよ!校長室をトラップだらけにしたのは、そいつらです!」

「な、な、なんですと!!!!!」

高松先生は学年主任の先生にそう言われて、目が飛び出そうなくらい驚きながら叫んだ。
校長室にトラップ?
トラップってあれだよね?
いわゆる罠ってやつだよね?
下からロープが突然出てきたり、矢が飛んできたりするやつだよね?
なぜそんな物を校長室に?
それよりも校長室にトラップなんか仕掛ける事ができるの?

「や、やばっ!」

「お前らだったのか林、佐々木!キサマラ、校長先生を殺す気か!
 竹槍が壁に刺さっていたぞ!それに、どうしたら机が天井に張り付くんだ!」

矢は飛んで来なかったようだけど、竹槍と机は宙に舞っていたらしい。
いったいどうやったら机が天井に張り付くトラップなんか仕掛ける事ができるんだろう・・・・。

「大丈夫っす。ただ、扉が開いたら作動するようにしてただけですから!
 きっと怪我なんてする事ないっす!だから死ぬ事なんてありませんよ!」

「黙れ林!まったく意味がわからん!とりあえず話は職員室で聞いてやる!素直にお縄に付け!」

「無理です。おい、亮!逃げるぞっ!!」

林君は逃げるぞと言いながらも足元に転がっている佐々木君を踏みつけて行った。
気絶してからしばらく時間が経っていたので、なんとか意識を取り戻し立ち直りかけていた佐々木君は、
再び鳩尾辺りを林君に踏みつけられた為に

「ゴッファアアアアア!!」

と口から何か白い物を吐き出しながら再び気絶してしまう。
あれ絶対ワザとだ・・・・・・・・。
だって私は見たもん。
逃げようとして振り返った林君が、一瞬チラリと佐々木君を見てニッと笑った事のを。
絶対に佐々木君を生贄にしようとしたんだ。

「お、おい、佐々木!だ、大丈夫か!く、口から魂らしき物が吹き出ているぞ!!
 戻って来い佐々木!逝ってはダメだ!!」

林君の目論見は成功したのか、ピクピクと痙攣しながら横たわっている佐々木君に、
高松先生は必死で心臓マッサージをしながら現世への復帰を促している。
それをまったく振り返って見る事もせずに林君は校舎の方へと走り去って行く。
そんな林君を私はずっと見ていた。

「どう〜したのア・オ・イ。なんか気になるの?」

どこからともなく声がしたかと思うと、目の前に知里ちゃんの顔がニョキと生えた。
声と顔の両方で驚いた私は、「わっ!!」と声を上げながら後ろによろめく。

「お、驚かさないでよ知里ちゃん!!さすがにその顔はキツイよ」

「あんた、自分の言葉が無自覚に他人を傷つけているか考えなさい・・・・・・・。
 それよりじっと何を見ていたのよ?林君のことが気になるの?」

「え?別に気になるとかじゃないけど・・・・・あれ誰?」

私は全速力で走っている林君の背中を見詰めながら知里ちゃんにそう尋ねた。

「ああ。林君と佐々木ね」

どうやら知里ちゃんの方は私と違って、あの二人の事を知っているらしい。
林君はともかく、佐々木君の方は呼び捨てだった。
知り合いなのかな?
ちなみに知里ちゃんに呼び捨てにされている佐々木君は、
ちょうどオリンピック開会式の入場時に持たれている国旗のように、先生数人に手足を持たれながら運ばれて行ったところだった。
佐々木君はああいうのが絵になる人なんだね・・・・・・・・・きっと。

「この学校始まって以来、最高の悪ガキ達。この学校のイタズラは、あいつらがほとんど犯人よ」

私の「誰?」とい問いに、少し笑いながら知里ちゃんはそう答えた。
なんとなくなんだかちょっと自慢顔だ。

「そうなの?」

「入学式の日にクラスのプレートが全部変わってたって事、あったでしょ?」

「うん。そう言えばそんな事もあったね。懐かしいなあ〜。」

それは去年の私達の入学式の事。
私は外のクラス発表の張り紙を見た後、自分の教室に行って荷物を置いた。
その後、入学式の為に体育館に向かったのだけど、式が終わって教室に戻ると私の荷物が無くなっていたのだ。
最初は盗まれたのかなと思ったので私はオロオロとして、周りをよく見てみると他の人達も同じように驚いていた。
私は教室から出て、クラスが書いてあるプレートを見た。
私のクラスだ。
しかし、何やら他のクラスも同じような状態になっている。
教室のプレートが変えられていたのだ。
まだ新しい教室の位置をだいたいでしか覚えていない私達は、何階かまでは覚えていたのだが、
同じような教室が続くこの廊下では、このプレートを見て教室を判別していた。
よって配置を覚えていた人以外は、ほとんどが入学式前とは違う教室に入ってしまっていたのだった。

「あぁ〜。あの時は、誰がこんな手の込んだイタズラしたんだろうって思っていたよ。うん。」

「あの二人よ」

「え?」

「あの二人がやったらしいわ」

「なんで、そんな事分かるの?」

「この学校ってさ、変に進学校でしょ。だからね、入学式はみんな出席していたのよ。約二名を除いてね。
 あの二人が入学式の前まで居た事はわかっているから、バレたんでしょね」

「そうなんだ」

あの事件ってこの人達が犯人だったんだ。
確か・・・、私は自分以外にも慌てている人達を見ながら
自分が原因でこうやって皆が慌てている姿を見る事ができたら楽しいだろうなって思っていたんだ。
その後すぐに、自分にはそんな勇気が無いから無理だけどって思ったんだっけ・・・・・・・・・・。

「その他にも、いろいろあるわ。学校中をウサギが駆け巡っていた「ウサギ恋し大脱走」事件とか、
学校の校門の色が金色になっていた「グレた校門」事件とかもそうだよ」

「うわ!あの事件もなんだ」

「そっ。あの二人が犯人よ。まだまだあるわ」

知里ちゃんは次から次へと私達が入学してから起こった様々な事件を、勝手に名づけながら挙げていく。
それはどれもこれも学校中の話題を掻っ攫っていった事件ばっかりだ。
というか、この学校で起きた事件全部なんじゃないのかな?
私は再び走っている林君の方を見る。
すでに彼は校内への入り口の所まで行っており、もうほとんど逃走成功が確定する直前のようだった。
しかし校内に入ろうとした瞬間、林君がピタッと立ち止まる。
そんな林君を私がどうしたんだろうと見詰めていると、彼の視線の先・・・・・・・校内の入り口から一人の女の子が現れた。
彼女は少し大人っぽい顔をしていて、上品な雰囲気を醸し出している。
そして艶のある長い髪は少し離れたこの場所からでも光っているのが分かる程だ。
綺麗だなあ〜。
あんな子がこの学校にいたんだ。
ネクタイの色から彼女が一年生なのは分かる。
でも、なんであんな所にいるんだろう?
そう思って私が首を傾げた瞬間、林君がクルリと進路を変えて逃げようとするのを彼女が襟首を掴んで止めた。
しかも片手で・・・・・・・・。
そして追いかけて来た数名先生達に、彼女は捕まえられた猫のようになっている林君を突き出した。
先生達はその女の子に万歳までして大袈裟とまで言ってもいい程の感謝を意を表すと、
林君の両腕をガッチリと掴んで校内に連れて行った。
彼女もそれに付いて校内へと入っていく。

「今回は、どっちもお縄になったね。佐々木は気絶してるけど」

校内の入り口の前に誰も居なくなったので、知里ちゃんはそう言いながら私の方を向いた。
私も知里ちゃんにつられてこちらに視線を戻す。
そして、さっきから気になっていた事を知里ちゃんに尋ねてみた。

「ねえねえ、知里ちゃんはあの二人と友達なの?」

「なんで?」

「だって佐々木君の事を呼び捨てにしているし、なんだか二人の事よく知っているみたいだから」

「ああ、そうね。佐々木とは友達よ。だってあいつ、廊下でよく寝てるしね」

寝てるってなんだろう?
やっぱり睡眠しているって事だよね?

「その時に声を掛けてから、佐々木とは話をするようになったんだ〜」

それを何か誇らしげに話す知里ちゃん。
本当に佐々木君が廊下で寝てる事に違和感は無いのだろうか?
私的にはすごい気になるんだけど・・・・・・。

「じゃあ、佐々木君と仲良くなったから林君とも友達なんだね」

皆の前での二人のやり取りや知里ちゃんの話からすると、林君と佐々木君が仲良しなのはわかった。
そして知里ちゃんはその佐々木君と仲が良い。
じゃあ佐々木君と仲が良い林君とも知里ちゃんは仲が良いんだと私は思い、そう尋ねた。

「ううん。違うよ。林君は友達じゃないよ。それと佐々木は友達だけど、そんなに仲良くもtないよ」

「え?でも林君達の事、詳しいよね知里ちゃん」

「ああ、あれ?だってファンだからね」

「誰の?」

「林君の!」

ファ、ファン?
一年以上も友達なのに、そんな事、葵は初めて聞いたよ。
というか私、知里ちゃんにそんな事聞いた事ないや。
いつも知里ちゃんが私に聞いてくるだけだったから。

「そ、そうなの?」

「うん。だって、林君カッコいいじゃん。この学年じゃトップクラスよ」

「そ、そうなんだ」

「それにね。林君の隠れファンはいっぱいいるよ」

「そ、そうなの?」

なんかモテモテだねえ・・・・・・・・林君。
ファンという事は、知里ちゃんは林君の事好きなのかな?

「ねえ、知里ちゃん。林君の事、す、好きなの?」

「そんなわけないでしょ。ただのファンよ。好きまでいってないから隠れファンなのよ。
 あんたのファンクラブはオープンだから、全員あんたの事好きなんだろうけどね」

「そ、そんな事ないよ」

「しかし、あんた、なんでそんなに林君の事気になってるの?もしかして一目惚れでもした?」

「そ、そんなわけないでしょ」

私は思ってもいない事を尋ねられ、少し動揺してしまう。
なんでそんな話になるかなあ・・・・って私が聞いたんだったよ。
“私がこの学校で誰かを好きになる事なんてない”って言ったのは知里ちゃんじゃない!
それなのに今更、どうしてそんな事・・・・・。

「ごめん、ごめん、冗談よ。でも林君なら、あんた好きになるんじゃない?」

満面の笑みで笑っていた知里ちゃんが、口だけニヤリとさせた表情に変えてそう言った。
私が林君の事を好きになる?
なんで?
突然の言葉に呆然としている私に、知里ちゃんが話を続ける。

「林君は自分の気持ちに正直なんだもん。あんたは林君を知れば、きっとそんな林君に惹かれるんじゃないかな。
 あんたが出来ない事、彼はやっちゃうからね」

私が出来ない事・・・・・・・・。
それは・・・・・・人目を気にせず自分の気持ちを行動に移す事。
ずっと私が憧れている事だ。
私がもう少し強ければ人目なんか気にしないでいろんな事ができたと思う。
でも私は強くなんてなかった。
みんなが私を見て作り上げた、「和泉 葵」という人物は大人しくて良識のある人間でいる。そうあり続けてる。
私はそれを壊す事ができない。
他の人がイメージする私を壊す事なんか・・・・・・・。

「葵!あんたしばらくの間、林君を観察してみなよ」

「観察?」

「うん、そう観察」

空を見上げていた私に知里ちゃんがよくわからない事を言ってきた。
観察って、小学校の時にカブトムシの幼虫でやったアレの事かな?
ノートに日記を付けて、絵を書いて・・・・・・・なんで?

「林君を観察してみたらいいよ。きっとあんたが考え過ぎだって事、分かるはずだよ」
知里ちゃんが笑っている。
でも顔は真剣だ。
きっと冗談じゃないんだ。

「でも知里ちゃんだっていつも考え過ぎだって言ってくれてたし、理解しているんだけど何も変わらなかったよ私」

「本当に自分の気持ちに正直な人を見ればわかるよ。私だってあんなに正直にはなれないから。
 それにね。あんたはもう気になっているんでしょ?さっきのたったあれだけの事だけで」

「・・・・・・・・・・・・・・」

私は何も言い返せなかった。
何でだろう?
知里ちゃんの言っている事が図星だから?
林君の事が気になっているから?
本当に・・・・・・・。

「何でも物は試しよ!!観察まではいかないまでも、彼の事を知ったらいいよ葵。
 だから自分を変える為にも少し頑張りな!!応援するから!!」

知里ちゃんは気持ちのいい笑顔を私に向けてそう言った。
自分を変える為に・・・・・か。
本当にそんな事ができるのかな?
私は再び空を見上げた。



いつもなら心が空っぽになるのに、今は誰かの事を考えている。
さっき初めて知った男の子の事を。
私を連れてって欲しい。
それはどこでもいいから。
この場所じゃない新しい自分の場所へ。
貴方なら私を連れってくれる?
ねえ、林君。

私はゆっくりと顔を戻し、知里ちゃんへと視線を移す。
そして私ができる最高の笑顔を隣に居る親友へ見せた。

「私、頑張ってみるよ」

理由なんてない。
なんとなく彼ならと思えただけ。
だけどそれで十分だと思う。
少しずつ彼を知っていこう。
そして少しずつ自分を変えていこう。

これがその一歩だ!!






(END)



                                                          文 HktY  絵 Yaaaa!!